仙台高等裁判所秋田支部 昭和59年(ネ)97号・昭59年(ネ)93号 判決
【判旨】
一本件記録によると、次の事実が認められる。
原告会社代表取締役木谷義高名義の支払命令申立書が昭和五七年四月二八日秋田簡易裁判所に提出され、同裁判所は同年五月七日右申立に基づき支払命令を発した。被告山上は同年五月一七日、被告三浦は同年五月二〇日、右支払命令に対し異議を申し立てたので、事件は昭和五七年(ワ)第二四三号事件として秋田地方裁判所に係属した。
原審の第一回口頭弁論期日(以下、第何回期日と略す。)(昭和五七年六月二二日)において、原告代理人支配人として森重光信が出頭して支払命令申立書を陳述したが、右森重光信は、第六回期日(昭和五八年二月二二日)まで原告代理人支配人として出頭し、その間、第四回、第六回各期日において同人作成名義の準備書面を陳述し、第四回期日において甲第一号証の一、二、第二号証を提出し、第四回、第五回各期日において同人名義の証拠申立書を提出して被告本人及び証人の尋問を申請した。第七回期日(昭和五八年七月一二日)においては、原告代理人支配人として千葉亨が出頭し、同人名義の証拠申立書を提出して証人尋問を申請した。
原告は昭和五八年八月三日付委任状で本件原告代理人弁護士加藤堯に本件訴訟を委任し、同弁護士は第八回期日(同年一〇月二七日)以降弁論終結の第一二回期日(昭和五九年四月一九日)まで原告訴訟代理人として訴訟行為をした。
前記森重光信、千葉亨は前記各期日当時において原告会社秋田支店の支配人として登記されているが、原告会社秋田支店は支店長を筆頭に、その下に管理課長及び営業課長をおいており、管理課長は管理、経理、総務及び人事を担当している。前記森重及び千葉は前記各期日当時において右管理課長の地位にあつた。
二商法三七条以下に規定される支配人とは営業主により本店又は支店の営業の主任者として選任された商業使用人をいうものである。支店の場合は支店長のみがこれに当り、支店次長も支店長代理も支配人すなわち営業の主任者ではない。まして、支店長の下にある課長は支配人ではありえない。支配人は営業全般の包括的代理権を有するものであるが、課長は右と異なり、支配人(支店長)の下にあつて営業の一部門の代理権を有するものであつて、商法三八条二項に規定される「番頭」に該当する。したがつて、管理課長である森重光信及び千葉亨は支配人ではない。
支配人は裁判上代理権を有するものであるが、実質上支配人でない者を支配人として登記しても、その者が支配人となるわけではなく、裁判上代理権を有することにはならない。原告が管理課長である者を支配人として登記したのは、支配人が裁判上代理権を有することに目をつけて、実質上支配人でない者を支配人として登記して裁判上の行為をなさしめることを目的としたものであつて、民事訴訟法七九条の制限を潜脱する違法行為である。本件における森重光信及び千葉亨はいずれも支配人ではなく、裁判上代理権を有しないから、右両名の原審における前記各訴訟行為はすべて無効である。
本件においては、原審の第八回期日以後は弁護士である原告代理人が訴訟を追行しているが、だからといつてその前における訴訟代理権欠缺の瑕疵が治癒されたものということはできない。本件におけるようなにせ支配人の訴訟行為は民事訴訟法の強行規定に違反するものであり、その例は、本件原告に限らず、他にも存することは当裁判所に顕著である(当裁判所昭和五九年(ネ)第一〇二号事件。同年一一月二一日判決言渡)。裁判所はこのような脱法行為を排除しなければならない。もし、後に弁護士が訴訟を追行したことにより、瑕疵の治癒とか追認とかを認めるとするなら、初めにせ支配人に訴訟を担当させ、後に弁護士に委任することにより、本件のような脱法行為が容易に可能となつてしまう。それではかかる脱法行為を排除することはできない。したがつて、瑕疵の治癒も追認も認めることはできない。
また、本件では、被告らはにせ支配人の訴訟行為に対して何ら異議を述べていないことは記録上明らかであるけれども、訴訟代理権欠缺の瑕疵は相手方に異議がないからといつて治癒される問題ではないから、被告らが異議を述べなかつたことは前示の判断に影響しない。
今に至つて、裁判所がにせ支配人の訴訟代理権欠缺の違法を捉え、本件を原審に差し戻すときは、被告らに対し訴訟の遅延による大きな不利益を課することになるが、原告が企てた違法行為を是正するためやむをえない。これによつて被告らが蒙るであろう損害は原告において賠償すべきものである。
(石川良雄 武藤冬士己 武田多喜子)